2019年度全国通訳案内士口述試験と三軒茶屋~渋谷の散歩の記憶


イーライナーで東京へ


 二次試験(口述試験)の会場は日本大学三軒茶屋キャンパス。交通手段は遠鉄高速バスのe-LineR渋谷新宿線を利用。ネットで予約して、当日はスマホでweb乗車券を見せるだけ。バス内にはトイレもあって快適!渋滞の不安はあるけど、午後の試験なら選択肢としてあり。

左手に富士山を見ながら旅行気分
 
 バスは定刻通り4時間ほどで渋谷マークシティに到着。そこから東急田園都市線で渋谷から三軒茶屋へ。駅に着くと「受験者かな?」と思われる人がちらほら見えて少し安心する。その流れに乗って会場の日大を目指す。徒歩15分くらいの距離。既に午前の部を終えた受験者達とすれ違うが、自信ありげな人は少なく、ここでも少し安心する。

 途中コンビニによって昼ご飯を調達。歩道のベンチで食す。「一時的でもいいから覚醒させてくれ!」とレッドブルを衝動買い。普段と違うことをするのは良くないことを知っているが、ここは気持ちに負ける。勢いよく飲むと口からこぼれるレッドブル。歩いて暑くなり、脱いで膝の上に置いていたコートに流れ落ちる。やっぱり普段と違うことをするのはよくない。


試験会場内へ


 受験会場付近でお馴染み、業者のビラ配りに対応しつつ、受付時間の12時00分~12時25分に余裕をもって到着。建物のロビーらしきところで自由に過ごす。受付時間が過ぎると、エレベーターで上階に移動させられる。この辺りから少し記憶が曖昧だが、待機する大部屋に入る前に受験票と身分証明書で本人確認。大部屋に通された後は、通信機能のある電子機器の使用が禁止される。受験者同士の会話も禁止。トイレは係員の同行で行けたはず。この部屋で30分ほど説明&待機の時間。50人はいたと思う。

 タブレットを見ていた人が係員に注意される。「これは通信機能はありません」と、ひと悶着している。自分はいつもGPSウォッチだが、ダメかなと思い、カシオの一番安いアナログ時計を事前に購入。さすがに通訳案内する人が"時計無し"はよくないかと考えて。


 会場を見回してみると、男性は定年組が多く感じる。女性も40代以降が中心か。20-30代はごく一部。女性は服装に気を使っている人が多いが、男性はそうでもない。そのまま浜松オートにいそうな人もいる(偏見!)。口述試験ではロールプレイがメインのため、試験官に働いている姿をイメージさせることは重要で、ハロー通訳アカデミーの植山氏も「スーツで」と言っている。個人的にはカッチリスーツはやりすぎかなと思い、ネクタイはしつつもカジュアルよりの恰好にした。自分の回ではネクタイ、スーツ系は少数派だったので、これは良い判断をしたと思う。

 通信機能のある電子機器は不可だが、本は読める。下記の2冊を持っている人が多数。読み込まれていたり、付箋だらけのものがある一方、自分と同じく新品同様のものを読んでる人もいて、また安心する。



 試験開始の13時00分になると、15人くらいに分けられ、また別の部屋に移動する。移動した部屋は巨大スクリーンが2つ並ぶ講義室。三軒茶屋キャンパスは2016年に開設したばかりの危機管理学部・スポーツ科学部の拠点で、マンモス大学の最新設備を垣間見る。

 この時点でも紙の本は読めたと思うが、最初の待機部屋で分からない単語や情報を見て焦りが倍増したので、もう勉強するのはやめた。今日は旅行に来ているのだと自己暗示をかける。近くの人と世間話でもしたいが、それは禁止。この2つめの待機部屋から、1人ずつ試験室へ向かうことになる。


口述試験開始


 ついに自分が呼ばれる。案内された先は高校の教室のような場所。この部屋の外にある椅子で座るように言われる。部屋の中は前の人の試験は終わっているようで、評価や次(自分)の準備をしている様子。

 ここで待つ間に最後の自己暗示をかける。「今日話す外国人は海外子会社の社員で、出張で日本に来た、言わば同僚だ。何も緊張する必要はない。日本に来て不安な相手に、リラックスして楽しんでもらおう」。幸いこれは実際の仕事でもある状況なので自己暗示しやすいが、そうでない人もこの設定はオススメ。

 そうこうしているうちに扉がガラッと開き、学校の学年主任のような女性が現れた。「Please come in」。日本人で安心したところにいきなり英語だったので、一瞬動揺する。入室して開口一番、元気に「Good afternoon!」とこちらから挨拶。就職面接でいきなり「こんにちは!」をやった記憶は無いが、Excuse meではないと思う。外国人は恰幅がよくて温厚そうな男性。私は勝手にボブと名付けた(後で名前を言われたような気がしたが忘れた)。ボブも「やあ!」という感じで答えてくれて、少し落ち着きを取り戻した。

 事前に調べた通り椅子は3つある。カバンと脱いだコートを置くには狭いと思ったが、「隣の机に置いてね」とここでも英語で言われて一安心。鉛筆とメモパッドを渡され、名前や出身地を聞かれる。「今日は〇〇って呼んでね」とニックネームを言うと、ボブはその後もニックネームで呼んでくれた。これも良かった。


プレゼンテーション


 1つめはプレゼンテーション試験。事前に配られていた用紙に記載のある説明を日本人女性から日本語でされたと思う。3つのテーマは「軽井沢」「千羽鶴」「テレワーク」。30秒以内にテーマと話す内容を決める。

 軽井沢、、、よなよなエールのヤッホーブルーイングくらいしか思い浮かばない。千羽鶴、、、やったことあるけど、説明が難しそう、、、。ということで、仕事がオフィスワークでもあるため、テレワークを選択。

 2020年12月現在、新型コロナウイルス感染症の流行により、テレワークが一気に浸透し、身近なものなっている。しかし、2019年末の段階では働き方改革の方法の一つとしてニュースに出始めたころで、正直たいした知識は無かった。試験終了後に思い出したが、東京オリンピック時の混雑対策として、都内の一部会社でテレワークの試験運用が行われる、という話もネタにできた。

 実際は何を話すか決まらないまま、あっという間に30秒が過ぎてしまう。何を話しているのか分からないまま、同じことを何度か話しているような気もしながら、ベラベラとしゃべり続けた。時間感覚も分からなくなっていると、「2分過ぎました。やめてください」と日本語でピシャリ。「終わった、、、」と思った。

 その後はボブからテレワークに関する質問(というよりは意見を聞かれる)が2つ3つ。聞き取れなかった質問は「Could you please say that again?」で、ゆっくり質問しなおしてもらえた。

 試験後に冷静になると、最初の30秒間ですべきことは、↓のようなマインドマップづくりだなと思った。原稿はもちろん作れないので、大まかに話すトピックを決める。余裕があれば話す時間も書けるといい。


 実際は打ち止めされても合格できたので、いざとなったら世間話的にしゃべりまくるのみなのか。


逐次通訳


 続いて日本人面接官から逐次通訳の日本語読み上げ。テーマは「紅葉」。"寒暖差があったり、日差しが強いと色が鮮やかになる"や、"有名な場所は奥入瀬、日光、箱根、京都"と言った話。比較的やさしい内容だった。

 メモの取り方をどうするかは本当に悩んだ。仕事で書く議事録も完ぺきとは程遠く、やり方はいつも悩みの種だ。ただ、口述試験は短い文章なので、「固有名詞と数字は書き取る」を最低限にできればいいと思う。今回は地名が4つも含まれていたので、その点では助かった。焦ってボブばかり見て話していたような記憶。日本人面接官も同様に見るべきだったと反省。

 そこからシチュエーション、これが長かった。状況としては日帰りで日光に紅葉を見に来たが、すでにシーズンが終わっていた、どうする?という内容。日光の知識はほとんど無し、、、

自分「残念だけど紅葉終わってるって。何か希望ある?」
ボブ「他に見どころはある?」
自分「東照宮なんてどう?紅葉よりもカラフルな神社だよ。近くに大きな滝もあるよ」
(後で調べたら東照宮と華厳の滝は20km弱離れてた、、)
ボブ「いいね!うーんでもやっぱ紅葉見たい、なんとかして」
自分「分かった。タクシー使おう。車で北に走って紅葉探そう!」
ボブ「え?それで紅葉見れるの??」
自分「見れるよ!車で30分くらい走れば紅葉残ってるよ!」
ボブ「30分でいけるならいいね。でもタクシー代は?」
自分「30分なら5000円くらいだよ!行こうよ!」
ボブ「5000円なら払えるな。提案ありがとう」

 なんだこれ、なやり取りだけど、ノリで押し切るしかなかった。ボブ、思ったより食い下がってきて「この茶番、いつまで続くんだ」と思いながらポジティブ人間に徹した。家に帰ってこの話をしたら、「紅葉は北から南でしょ」と突っ込まれ、本日2度目の「終わった、、、」。この後、合格通知が来るまで、紅葉のことを思い出しては「あーーーーー」となる日々。

 しかし、冷静に『全国通訳案内士試験ガイドライン』を見てみると、評価項目は次のようになっている。

・プレゼンテーション
・コミュニケーション(臨機応変な対応力、会話継続への意欲等)
・文法及び語彙
・発音及び発声
・ホスピタリティ(全国通訳案内士としての適切な受け答え等)

 内容の正確さは判定ポイントになっていない。そりゃそうだ、予習無しで浜松の人間が全国の観光地の話を正確にできるわけないのだ。「会話継続への意欲」、これはがんばろう。


試験の終わり、散歩の始まり


 口述試験が終わると、また別の待機部屋に移動し、そこで14時15分の解散時間まで待機する。試験後の解放感に浸りながら、ここにきて読みきれていない関連本を読んで過ごす。やっぱり日本に関する新しい知識を得ることは楽しい。

 解散時間になり、ようやくキャンパスの外へ。ここからが本日2番目の目的、まち歩きの始まり。良さそうな店があればそこで一杯やろう。まずは世田谷観音通りを西へ進む。閑静な住宅街。




 玉川通りとぶつかり、これを北東(渋谷)方面に向かって進む。三軒茶屋駅に近づくにつれて人が増えてくる。日本で新型コロナウイルスの感染者が確認される直前の街だ。駅周辺をひたすら歩きまわるが、非地元民には昼から飲める良さそうな店は見つけられなかった。





 ここから玉川通り沿いを渋谷に向かってひたすら歩く。首都高が屋根になって暗い感じ。道沿いは「中層マンションと1階の店舗」な景色が延々と続く。久しぶりの東京で驚いたのが自転車の多さ。まずはウーバーイーツの配達員が多い。この時点で浜松は未展開だったので「こんな流行ってるの?」とびっくり。次に子供乗せアシスト自転車。マンション前にもずらっと並んでる。ヤマ発!

 この辺に住んでいる人は車の所有者が少なそうなので、ウーバーと子供乗せ自転車が多いのか。歩いている人はわずかで、横をビュンビュンすり抜けていく自転車にたじろぐ。

 半分くらい歩いたところで、突然鳥居と階段が現れる。上目黒氷川神社という場所で、まさに都会のオアシス。アップルティーの振る舞いもあってありがたい。せっかくなのでおみくじを引いてみたところ、英語の表記が!そして"Unlucky"!




 さらに歩くとマンションがオフィスビルに変わっていき、ようやく渋谷に到着。谷というか坂を感じる街だ。日も暮れて飲食店も開きだすが、通り沿いはチェーン系が多い。路地で地元のおっちゃん系店舗を探すも、ちょっと今の格好だと浮きそうだな、と変な心配性が発生。ここ!というところを見つけられずに、うろつく。

 でも知らない場所のまち歩きはいつもに増して楽しい。バスの時間は決まってしまっているので、最後の手段で富士そばに入店。ビールとカップ酒をあおる。ここも立派なローカルフードでしょ(泣)




 再びマークシティで帰りのバスを待つ。列に並ぶと前に並んでいる方に見覚えが。朝、三軒茶屋駅で降りて日大方面に歩いて行った人だ。添乗員のような格好だったので記憶に残っている。思いきって「通訳案内士受けました?」と声をかけると「え?」と驚かれつつ、勉強法や今日の感想で盛りあがった。

 そこでなるほどと思った話がひとつ。彼女は「語れる地元のトピック」を持っていて、ネタに困ったら無理やりそれにもっていく、という方法を考えていた。1つは富士山(もう1つは忘れてしまった)。これはありだと思う。地理的、歴史的に少しでも関連があればその話に展開する。とにかく一番危ないのは無言の時間が続いてしまうことと言われているので、これも技術のうち。

 2ヶ月後に大きな封筒が届き、長かった勉強期間にとりあえずのピリオドがついた。Thank you, ボブ!